医師のインタビュー記事

佐々木 豊和 医師  Dr.Sasaki Toyokazu

精子のために良いこと悪いこととは?

 編集部   

精子にとって良いこと悪いことは何でしょう?

 佐々木 

男性不妊の治療をしている患者さんや奥さんからもよく「何か家でできることはありませんか?」と聞かれます。そのときに、精子に影響を与えることをまとめてお伝えしていますので、その話をしましょう。

精子に良くないこととしては、まずは熱があります。そして、男性にとってふだんの生活の中で股間を締めつけるのもNGです。また、ピロリ菌や歯周病にも注意が必要ですから要チェックです。

良いこととしては、バランスの良い食生活、適度な運動、最低6時間の睡眠。長時間の座位を避けることなどがあります。


熱は精子によくない!

 佐々木 

先にあげたように、一般的に精子に良い、悪いといわれていることは複数あります。中でも熱に関しては誤解されやすいこともありますから、きちんとデータの取れている情報としてお伝えしていくことも大切です。

そのひとつとして、男性陣がよく好んで利用しているサウナがあります。サウナは睾丸を温めすぎてしまうため、定期的なサウナ風呂の入浴は避けましょう。
先日も男性不妊に関する学会で睾丸を冷却シートで冷やすと良いという発表がありましたが、冷やすと良いというくらいですから、温めすぎないことの大切さも、そこに含まれているのです。なお、通常の入浴程度、暑すぎない湯船に15分程度入るくらいなら問題はありません。
また、病気による高熱も精子に悪い影響を与えます。妊娠中は時節柄、インフルエンザにも十分注意しましょう。


股間を締め付けるのもNG

 編集部   

股間を締め付けるのも、なんだかキリッとした感じで男性にとっては良いことのように感じてしまうのですが、それも良くないのでしょうか?

 佐々木 

股間を締め付けることも良くありませんね。ですからサイクリングもよくないとされています。サイクリングパンツやブリーフ、ランニングパンツも同様の理由でおすすめしません。

自転車をこぐときに睾丸が圧迫されることやサドルにこすりつけることで発熱作用が加わわり続けること等がよくない理由です。
自転車でも、いわゆるママチャリは多少大丈夫ですが、ロードバイク、スポーツバイクのようにサドルが細くて固いものはNGです。
サイクリストには、尿道がしびれるような自覚症状がある方もいますが、その場合、射精障害の原因になりえるので注意が必要です。


ピロリ菌や歯周病も要チェック

 編集部   

その他のことではどのような注意がありますか?

 佐々木 

癌の発生率を高めることで有名なピロリ菌が実は精子にとってもよくないんです。ピロリ菌に感染していると精子の運動率が低下するといわれているのです。

実際、男性不妊の方がピロリ菌の検査をすると保菌者が多く、除菌をすると精子の状態がよくなるというデータがあります。
最近、不妊症の原因として、男性にも半分の原因があることが知られていますから、不安に思われる方もいらっしゃるでしょう。
だからといって最初からカメラを用いた検査をするのは負担が大きいので、まずは抗体検査をするといいでしょう。検査で陽性反応が出たら、カメラを使って内視鏡検査をした上で除菌することをおすすめします。
また歯周病もよくありません。歯周病菌が精子の状態を悪化させることがわかっています。
気になる方は一度、歯医者でチェックしてはいかがでしょうか。


健康なからだづくりが精子にもいい影響を及ぼす

 編集部   

ではどのようなことが良いのでしょう?

 佐々木 

喫煙が悪いのはいうまでもありません。吸っているならすぐに止めるべきです。タバコを止めただけで精子の状態がよくなって自然妊娠する人もいます。

からだに悪いことは精子にも悪い影響を与えます。逆に健康なからだづくりをすれば精子にも良い影響が出るのです。
<食事>精子は食事からつくられているので重要です。サプリメントもありますが、安全で新鮮な食品から栄養を摂ることをおすすめします。
ビタミンBやC、E、亜鉛など積極的に摂ったほうがよい栄養素はありますが、大事なのは栄養のバランスです。大豆製品や乳製品はからだに良いイメージがありますが、摂取しすぎるとホルモンバランスが崩れて男性らしさが削がれてしまいます。
また、カフェインのとりすぎも問題です。
もちろん水分も必要です。1日に1〜1.5Lくらいの水分補給を心掛けましょう。
<運動>有酸素運動がいいというデータはありませんが、BMIが25以上になると精子の状態は悪くなります。適正体重を保つために適度な運動をしましょう。マラソンのようにからだが疲労してしまう運動は逆効果なので、何事もやりすぎないことが大切です。
<その他の生活習慣>何時間座っていたら悪い、どんなイスだったら悪いというデータはありません。ただし、長時間の座位が悪いのは間違いないので、デスクワークの方はお仕事の合間など、時々、立ってみてください。

 編集部   

ありがとうございました。続いて中篠先生にうかがいます。


中條 弘隆 医師  Dr.Nakajyo Hirotaka

1億分の1のエリート精子を

いかに選び出すか

 編集部   

佐々木先生に精子についてのお話をお聞きしましたが、次に精子の選択についてはいかがでしょう。

 中 條 

1回の射精で女性に提供される精子は一般には3〜5億個です。その中から女性の卵管膨大部まで到達して受精を競うのは、わずか5〜7個。対して待ち受ける卵子は1個です。実に1億分の1の確率の競争を勝ちぬいた精子が受精し、ベビーへの道すじをたどるのです。これだけ厳しい競争を勝ち抜いた精子だからこそ、良い卵子と結びついた時に70〜80年も生き抜くようなひとになるといえるでしょう。

自然界は1億分の1という熾烈な競争をさせることで、すぐれた精子を選び抜いているのです。これが、顕微受精をする際には精子を人の手で選んでいますよね。この選んだ精子が果たして1億分の1の確率を勝ち抜いた逸材に匹敵するかどうか、そのような精子をしっかり選べているのかどうか、泌尿器科医として精子を考えた時に疑問に感じることがあります。

 編集部   

その疑問からどのような診療を?

 中 條 

正直、自然界と同じように、競争に勝ち残る1匹の精子を選ぶことはとても難しいでしょう。でも、自然界に近づけるように選択の基準を厳しくし、高い基準の精子を見つけることは可能です。それが当院で実施している高精度精子検査Bコースです。

現在、婦人科で実施されている一般の精子検査は、精子の数と運動率を重視しています。が、数が多くて動いていれば良いというものではありません。これに対し、高精度精子検査コースは、すぐれた精子を選び出したうえで、その質を調べるのです。精子のエリートとして4つの要点をチェックしています。

❶DNA二重鎖切断陰性率
切断されていない、きちんとした遺伝情報を持っている精子が何パーセントいるのかを確認します。
❷耐凍能
精子を一度凍らせた後に溶かして生き残るかを確認します。耐凍能を持っていると体外受精などARTをするときに精子凍結保存が可能となり、作戦の幅を広げることが可能です。また、凍結・融解を経て生き残る精子は生命力が強いので、ARTで使用する有力な候補になります。
❸先体反応誘起能
精子が卵に侵入するのは先体が必要です。先体は受精を誘導するいわばナビの役目を果たしているのですが、この先体が搭載されていない精子も多くいます。ですから、先体があるか、先体の性能が良い精子がどれくらいいるかを確認します。
❹ミトコンドリア局在
精子の首のあたりにはミトコンドリアがあり、精子の直進能力を担っています。これがないと卵まで素早く行き着くことができません。他の精子よりも先んじて卵にたどり着くための動力源なのです。

 編集部   

より専門的ということですね。


精索静脈瘤の手術後に自然妊娠するケースも

 編集部   

他に何か特徴的なことはありますか?

 中 條 

男性不妊の原因として精子の質とともに、ぜひチェックしてほしいのが精索静脈瘤です。

今、男性不妊といわれる男性には精索静脈瘤の方が非常に多いのです。当院にみえる初診男性の10人中4〜6人くらいが精索静脈瘤ですから。

精索静脈瘤は手術の適応となります。私一人で年間70件ほど手術していますが、手術後、精子数が3〜4倍に増えるなど、精子の状態が良くなる方が多くいらっしゃいます。手術前は婦人科で「妊娠はあきらめたほうがいい」といわれたご夫婦が夫婦生活で自然妊娠するケースもありますね。

手術で精子の数がそれほどわからないケースでも、質の向上が見られます。先に説明したDNA二重鎖切断陰性率、耐凍能、先体反応誘起能、ミトコンドリア局在などの数値がアップするのです。

ですから、今後も注意深く、さらに一生懸命に男性不妊の診療を進めていきたいと思っています。

 編集部   

なるほどなるほど。今後も是非ご夫婦のために、先生みなさんで頑張っていってください。


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