目次
男性不妊に対する認知・関心は確実に高まっている
編集部
男性不妊は増えていますか?
佐々木
男性不妊科の諸先生方の地道な啓蒙活動やマスコミで男性不妊について取り上げられるようになって来たこともあり、最近患者様が増えていると実感しています。
結婚前に一度ちゃんと調べておこうとブライダルチェックにこられたり、精液検査を受けた結果、数値が悪かったからという理由などで自発的に来院される方やレディースクリニックからの紹介で来たという方も多くいらっしゃいます。
また、奥様は不妊治療を受けていなくても、自分に問題があるのではないかと来院する方も増えてきました。概してはっきりとした自覚症状はないけれど、なかなか妊娠しないから、「もしかしたら自分に原因があるのでは?」と思われるようです。
一方で、自覚症状を感じて来られる方もいます。
軽い勃起障害だったり、性欲の低下を訴えていたり、陰嚢の痛みがあって来院する方もいます。いずれにせよ、男性の意識が変わってきたのでしょう。
平日のほうが余裕はあるのですが、お仕事の関係で皆さん週末のほうが来院しやすいのでしょうね。
以前は、週末も医師一人体制でしたが、患者さまの増加とともに混雑するようになりました。
待ち時間を何とか減らせるようにと考え、週末は体制強化し医師二人にて診療に当たっております。
自発的に来院する男性が増加
編集部
来院する男性の年齢などは?
佐々木
来院される男性の年齢は20~50代とかなり幅広いですが、特に多いのは30~40代ですね。晩婚化の影響か、ご夫婦で不妊に悩まれている方がかなり多いと感じます。関東近郊から来院される方が主ですが、遠方からお見えになる方もいますね。
基本的にはご夫婦そろっての来院をお勧めしていますが、初回はご主人ひとりで検査に来られることもあります。その場合、検査結果を伝えるときに夫婦で聞いて欲しいと判断すれば「ぜひ奥様とご一緒にいらしてください」とお声かけしています。
二人目不妊の場合、お子様連れで来院されるのをためらう方もいますが、手術の合間など、他の患者様がいない時間帯に予約をお取りすることで余計な気疲れのないように心がけております。現在、半数くらいはご夫婦で来院されています。
以前は奥様主導でご主人はあまり積極的ではないとお見受けする方もいらっしゃいましたが、今はそういう方はほとんどいません。こういう点からも以前との違いを感じます。検査や治療の流れ当院にいらっしゃる患者様は、ホームページを見て、『自分はこの検査がしたい』と決めてくる方も多くいらしゃいます。
例えば、すでに高度不妊治療を受けていてる方が、高精度精子検査を受けたいと希望されて来院されています。ただ、当院で初めて治療を受ける方は、基本的な精子検査からのスタートが多いです。
もちろん、これまでの治療歴によって検査や治療は異なりますので、検査方法はホームページを参考にして決めて頂ければと思います。
検査内容についての説明はお電話でもしておりますので、その際に決めていただくこともできます。もちろん、受診の際に医師とご相談して決めることもできます。
初診では問診をして、食事や運動、喫煙など生活習慣で改善が必要なことはアドバイスしています。また、AGA治療薬等、男性不妊に影響がある内服薬がないかどうかのチェックも行います。
精子検査においては院内の採精室で採精をしていただきます。基本精子検査の場合は2~3時間で結果報告書が完成、高精度精子検査は2週間後に結果説明となります。
精子検査の特徴は?
佐々木
当院の基本精子検査では、精子数や濃度、運動率の他、精子に特殊な染色を行ない精子頭部の状態をチェックします。これにより精子のダメージをある程度推測できます。また、精子の状態を動画で供覧し、良好精子と比較することで自分の精子の状態を客観的に把握することが出来ます。
実は精子数や精子運動率のみで精子を判断することは困難です。例えば精子数が1億匹、運動率50%とWHOが決めた下限基準値を大幅にクリアしていたとしても、いわゆる高速直進するエリート精子がいなければ妊娠にたどり着かない可能性が高いと考えられます。
顕微授精を予定しているご夫婦が、「精子が1匹いれば大丈夫なのですよね?」と時々質問をお受けします。確かに最終的には非常に良好な精子が1匹いれば良いわけですが、そのようなケースはごく稀なのです。
また、女性側に大きな問題がなく、男性不妊が主な不妊の原因であるケースにおいては、運動精子数に応じた不妊治療をお勧めしているクリニックが大多数と思います。例えば運動精子1000万以上であればタイミング療法や人工授精を推奨、100万なら顕微授精を選択と単純に運動精子数で決定しがちです。しかし、精子数が少ない、運動率が低いということは運動精子にもDNA損傷を来すようなダメージが蓄積されている可能性が高く、そのようなケースでは不妊治療の成功率も決して高いとは言えません。
以上の理由から、特に高度不妊治療を受ける患者様には、今後の不妊治療の成功率を予測する意味においても、精子DNA損傷程度を明らかにする高度精子検査を強くお勧めしています。何が悪いのかわからないままに顕微授精を繰り返して、不幸にも結局妊娠せずに病院を転々とする方もいますが、これでは先が見えず、不安を感じるでしょう。
残念ながら不妊治療を行ったすべての方に子供が授かるわけではありません。であるならば、原因がわかったうえで治療にあたるほうが、たとえ妊娠にいたらなかったとしても納得がいくのではないでしょうか。
生活改善+服薬で精子の状態がよくなることも
編集部
精子の状態は変わりやすいですか?
佐々木
精子の状態は変化しやすいものであり、まずは複数回の精子検査を行った上で判断するように心がけています。特に禁欲期間が長い場合は運動率や正常形態率が低下する傾向にあるため注意が必要です。精子検査の結果が思わしくない方であれば、約1/3の患者様に精索静脈瘤が見つかります。
精索静脈瘤の治療には漢方薬、コエンザイムQ10等の抗酸化剤を含めた薬物療法と根治療法としての手術療法があります。程度の軽いもの、また不妊歴が長くないケースでは、まず薬物療法をお勧めしています。しかし、内服治療による効果がみられず、中等度以上の精索静脈瘤と診断したケースでは手術療法に踏み切ることをお勧めしています。
奥様の年齢が高いケース以前は奥様が40歳以上の場合、精索静脈瘤の手術は勧めていませんでした。
一般的に手術後精子の状態が改善するまでには半年程度かかるとされています。このため、多くの産婦人科の先生方のご意見と同様、その期間を不妊治療せず棒にふるのはいただけないと考えていました。
しかし、当院で採用している精索静脈瘤低位結紮術においては術後の造精機能の早期回復が期待できます。
当院では手術3か月後すべての患者様に精子検査と手術後の状態を確認するエコー検査を行っています。その時点で造精機能が回復しているようなら、不妊治療の再開が可能である旨を報告しています。もちろん、その間に自然妊娠されるカップルもいらっしゃいます。ですから、ハイグレードの精索静脈瘤が見つかった患者様には積極的に手術をお勧めしています。
精索静脈瘤の手術後に妊娠を目指す精索静脈瘤の手術後への期待当院での精索静脈瘤手術は局所麻酔単独での日帰り手術を行なっております。強く希望される方には静脈麻酔を追加することもあります。毎週土曜日を手術日にあてることで、週明けの月曜日からは仕事を含めた通常通りの生活を送っていただくことが可能です。
また当院の特徴としましては、手術前後に高度精子検査を行なっていることが挙げられます。手術後に精子数や運動率があまり変わらないケースもありますが、精密検査を行なうことで詳細に精子の改善具合を知ることが可能なのです。
例えば、受精能力が改善したケースでは不妊治療のステップダウンも検討に値します。術後に高度精子検査を行なうことで、男性側からではありますが、今後どの不妊治療法が最適で勝算があるかをアドバイスさせて頂いております。
精子の状態が改善すれば治療のステップダウンも可能
編集部
精子の状態が変わればレディースクリニックでの治療に変化はありますか?
佐々木
精子の状態を見て、今なら顕微授精でなく通常媒精での体外受精や人工授精でも妊娠可能と判断できれば、そのようにお伝えしてレディースクリニックへの紹介状を作成します。実際、手術を受けたことで顕微授精からステップダウンされる方もいらっしゃいます。
この時に、当院で選別した精子を持ち込んだほうがよいと判断すれば、それもお伝えします。
編集部
最後に一言お願いします。
佐々木
当院はH30年10月に現在の岩本町に移転しました。移転の大きな目的は、ここで男性不妊の治療が完結出来るようにしたかったからです。以前のスペースでは検査はできても手術ができないなど治療が限定されていました。そのため、検査を受けたものの、どこで手術を受けたらいいのかと不安に思われた方もいらっしゃいました。ですが、今は当院で男性不妊の治療が完結しますので、安心して治療に臨んでいただけると考えます。
編集部
ありがとうございました。