不妊は女性だけの問題ではありません。女性の検査だけでなく、男性の精子を検査することはとっても大事です。さらに、顕微授精をする場合などは、最終的に卵に刺す精子を人が選んでいます。どんな基準で精子を選んでいるのか?について知っておくことはとても大事です。
今回は、精子の質や病院の選び方(精子検査の質を重視するならば、実は院内に採精室があるかも重要!)について知っていきましょう。
目次
まずは不妊原因について再確認しよう
不妊と聞くと、女性が原因と思う人が多いかもしれませんが、不妊の原因は様々です。男性側だけにある場合、女性だけにある場合、さらに男女ともに不妊の原因となる病状が複数あります。
だからこそ、不妊治療は「夫婦」でおこなう必要があります。
近年、食生活の変化やストレス、晩婚化などにより、男性不妊は増えている傾向にあります。
精子に関する情報も増えてきたので、「男性不妊」という言葉を耳にすることも多くなってきたかと思います。
不妊治療をする場合、女性側に原因がない時は、男性の精子や男性の身体を検査します。
不妊治療は必ず結果が出るものではなく、回数を重ねるごとに費用もふくらみます。
短期間で妊娠できたご夫婦の特徴を分析すると2つの特徴があります。
1)どこまで治療を望むのか、予算はいくらまでにするのかなどをパートナーと話し合うこと。
2)そして、治療すると決めたら2人でそろって検査に行くこと。
この2点が費用を抑える上でたいせつなポイントでもあります。
女性側のつらい身体的な負担を減らすためにも、男女両方を同時にチェックすることがオススメです。
夫婦の年齢や条件について確認しよう
病院を選ぶ前に、まず現時点での夫婦の年齢を確認しておきましょう。
男性の年齢が上なのか?女性の年齢が上なのか?年齢が35歳以上なのか?40歳になっているのか?などによっても違ってきます。
年齢が夫婦ともに20代の場合
20代は妊娠に最も適しています。半年で約50%、1年以内に約80%程度の夫婦が妊娠すると言われています。しかし、男性が精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)になっていたりすると、妊娠する確率が減ってしまう事があります。
年齢が共に30代の場合
適齢期からは遠すぎませんが、20代とくらべて、男性や女性で精子や卵子の劣化が始まっています。
35歳以上を過ぎると妊娠の確率が下がるという事を覚えておきましょう。
年齢がともに40代の場合
生まれてくる赤ちゃんの生存率が低くなります。なるべく早く、医師への相談が必要になります。
夫婦によって年齢構成や状況が違うかと思います。基本的には、年齢が35歳以上になると、男女ともに妊娠しづらくなる可能性があります。年齢が高い場合は、自分で情報を調べて、必要であれば早めに医師に相談するなど行動が必要になる場合があります。
精子を選別するのは難しい
不妊治療をする場合は、男性の「精子の質」や「精子」について、きちんと理解しておく必要があります。
精子には「質」というものがあります。
射精される精子は、毎回一定のように思うかもしれませんが、じつは日によって「質」がかなり違います。
さらに、精子は卵子と比べて数が多いため、「質」を判定するのが難しいと言われています。
卵子は1つですが、精子は数多くの中から「一番優秀な精子」を選び出さなければいけません。
「顕微授精」 をする場合、精子は人の手で選ばれています。
この「選んだ精子」が1億分の1の確率を勝ち抜いた精子なのか?エリート精子なのか?はとても重要です。
「質のよい精子」については、クリニックや病院によって考え方が違います。
WHOの基準を満たしていればよい。元気に動いてさえ良い。と考えている病院やクリニックもあれば、それだけでは不十分で、より詳しい検査が必要だと考えている病院もあります。
健康な精子とは
では健康な精子というのは、どのような基準を満たしているものなのでしょうか?
健康な精子については、WHOが一定の基準を定めています。
WHOの精液検査の正常値(自然に妊娠が可能な精液の下限)は下記のようになります。
(2021年最新版)
- 精液量1.4ml以上
- 精子濃度1600万/ml以上
- 総精子数3900万以上
- 運動率42%以上
- 正常形態率4%以上(奇形率96%未満)
このような指標があります。これは「下限基準値」といって、精子がこの値を、最低限は超えていないと、妊娠は難しいという指標です。つまり、「精子の最低基準」という事です。
WHOの基準では、DNAレベルでの異常についての検査などは含まれていません。
さらに、「運動率」と「量」が基準を満たしていれば、「よい精子」という事になってしまっています。
本当にこれでいいのでしょうか?
DNAが損傷している精子の割合や、卵子に突入する能力である 「先体反応誘起能」が低下している場合、運動率や精子の濃度や量が正常だとしても妊娠しない場合があります。
男性不妊の原因とは
男性の不妊原因にはどのようなものがあるのでしょうか?
妊娠をするには、「精子」が「卵子」と結びつくまでの過程があります。精子を作り、射精をし、受精するまでの過程のどこかに問題や障害がある場合、不妊の原因となります。

精索静脈瘤について知っておこう
精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)は、男性不妊の40%以上の原因と言われています。男性不妊の原因としてはとても大きな割合と言えます。
精索静脈瘤とはお腹から逆流した、「あたたかい血液」 が精巣の温度を上げてしまいます。
すると精子を作る活動に悪影響をおよぼします。 精子は熱に弱いことをご存知でしょうか?
精巣が温められてしまうと、精子を作る機能が低下してしまいます。すると、元気な精子、優秀な精子がうまく作られなくなってしまいます。つまり、精子の運動率や濃度、精子の数が基準に満たなくなるという事態になります。
さらに、精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)は自覚がない場合もあるので、「気がつかなかった」という方も多いのが特徴です。
男性が通院しやすい環境か?
現在、男性不妊が増えていますが、治療施設に通っている人の大半は女性である場合が多くあります。
人にもよりますが、待合室に女性ばかりいると、男性はちょっと気が引けてしまうものです。男性でも通院しやすい環境か?についてはとても大事です。
男性が通院しやすい環境になっているか?少なくともその配慮があるかは、ホームページを良くチェックするだけでもある程度判断できるものです。病院を選ぶ場合はチェックしておきましょう。
検査に力を入れているか
精子の検査基準はWHOの基準がありますが、最低限の基準となっています。低い基準で精子のチェックや検査だけを勧めている病院では、男性に問題がなくても「なかなか妊娠しない・・・」という可能性が出てきます。
男女ともに30代後半の場合などは、高度な精子の検査についても考えるようにするとよいかもしれません。
精子は運動率や濃度などは基準を満たしていても、DNAに異常がある場合などが考えられます。
なかなか妊娠をしない場合、「精子」をどのような基準の検査をしているのか?医師と相談するとよい可能性があります。
精子の選別技術にこだわっているか
精子の選別にも技術があります。
選別する前の精子がこちらです。
元気がある精子と、まったく動いていない精子がある事が分かると思います。
この精子を、選別すると以下のようになります。
いかがでしょうか?選別された精子はとても元気で運動率が高く、活発に動き回っています。
さらに、精子の形もよいです。
精子の選別について詳しく知りたい方は、こちらをクリックしてください。
男性不妊病院での精子検査の流れ
精液の検査は基本的な検査だけなのか?より高度な検査を行うのか?によって違います。
基本的な検査をするだけなら、精液量、精子濃度、精子運動率、精子正常形態率の基本項目のチェックがよいです。
最近では、自分の精子を専用の容器につめて、送るだけでチェックができる。というようなサービスも増えています。
クリニックや病院で検査を受ける場合の流れについては以下の通りです。
1.禁欲期間を「2日~5日」つくる。
2.専門の容器を渡される (自宅で採取するか、病院で採取するか選べる)
※検査の精度は、病院の採精室で採取した検体を調べる方が圧倒的に精度が高くなります。治療を行った際の効果測定を行う精子検査は毎回採精室の採精が望ましいです。男性不妊の治療でお世話になる病院を探すのであれば、採精室での採精ができる泌尿器科を選ぶことをおすすめします。
3.検査をする
精液の検査は、通常は数回行うのがオススメです。なぜなら、精子の「質」や「数」は日によって、大きな変動があるからです。1回目がたまたま精子の状態が悪く、2回目は正常な場合もあります。
男性不妊治療は主として、精子検査の結果を効果の指標とします。精子が3か月弱かけて作られる造精サイクルに合わせて薬物療法やサプリメントの服用を行い、精子検査で効果確認をすることが多いです。精子検査は持ち込み検体で行うのではなく、院内採精による精度の高い検査を採用しているところを選ぶことをおすすめします。
検査の費用は様々あります。値段が安ければ安いほど、一般的に検査基準が低いと考えておきましょう。
精液の異常値について
一般的に、自然妊娠が難しくなる基準値があります。
精子数:1,600万/ml 以下
運動率:42%以下
この基準を下回ってしまうと、自然に妊娠する確率がひくくなります。
精子の数が、1600万/1ml以下になってしまうと、「乏精子症」の可能性があります。
「乏精子症」とは、精液中の精子濃度が低く、精子数が1600万/1ml以下である症状と定義されています
さらに、精子の運動率が42%以下の場合、「精子無力症」の可能性があります。
体外受精の前に検査をしよう
体外受精とは、人工授精を何回もおこない、それでも妊娠しなかった場合に行われます。

体外受精は、体の外に取り出した「卵子」に「精子」をふりかけて、精子自身の力で卵子に侵入して結合・受精させる方法です。 精子には自分の力で、卵子と結合をさせます。
そのため、体外受精では、精子の質がとても大事になります。注意したいのは、体外受精では、WHOの基準で運動率や精子の数に問題がなくても妊娠しない場合があることです。
そのときは、より詳しい「精子の検査」にくわえて、選別技術のある病院で「良好精子の選別」をする事がよいかもしれません。
病院選びのポイントとは
不妊治療の病院選びにはいくつかのポイントがあります。
1. 病院の大きさで選ばない
2. 通いやすいか?
3. 評判はいいか・実績があるのか?
4. 勉強会に出てみる
5. 男性不妊の専門医がいるか?
6.採精室が完備されているか?
などがあります。病院の大きさなどでつい選んでしまいがちですが、病院が大きいからといって、担当医の腕が良いとは限りません。さらに、医師との相性もあるので、選び方のポイントは人それぞれです。
病院やクリニックを焦って選んでしまった人ほど、後で後悔していることが多いので、注意してください。
病院の大きさで選ばない
不妊治療をうける場合、病院やクリニックの選び方はとても大切です。結論からいうと、病院の大きさで選ぶと失敗する確率が高くなってしまいます。病院の大きさが大きいほどよい!!というわけではありません。
どこの病院を選んでいいのかわからない場合、つい病院の大きさや建物の立派さで選んでしまいがちです。
「これだけ大きい病院だから・・・」「いちばん立派な建物だから・・・」といった理由で選んでしまうと、間違える可能性が高くなってしまいます。
大きな病院の場合、医師の数が多く、「担当医制」ではない場合があります。
「担当医制」とは、ひとりの医師が診察を担当してくれる制度のことです。
担当医制度ではない場合、担当が変わると不安感がでたり、ストレスの原因となります。不妊治療をする場合、ストレスはなるべく減らしておくことがとても大事です。
なるべく信頼できる医師に、最後まで担当してもらう事をオススメいたします。
通院しやすいか
会社の近くにあるなど、通院しやすい環境が望ましいと言えます。
女性の場合、タイミング療法ですら、排卵誘発剤を使うと、毎日のように病院に行かなければなりません。
男性の場合は、精子の検査や治療など、通院する回数は女性よりは少なくなります。
基本的には近くによい病院があればよいのですが、ない場合は、遠方の実績のあるクリニックなどに通うのもオススメです。
男性不妊の専門家がいるか
男性の不妊治療の専門医は少ないことをご存知でしょうか?
日本では、産婦人科の医師の数が多く、女性の不妊原因についての研究は盛んにおこなわれてきました。
ひと昔前は、精子についての研究が遅れていたため、「不妊=女性が原因」という考えをする人が多く、医師も女性側の研究や治療をする人ばかりでした。
精子について勉強や研究をする医師が少なかったので、精子についての研究がとても遅れてしまいました。
さらに、男性の不妊は「泌尿器科」という専門的な分野です。
「泌尿器科」と聞くとどんなイメージでしょうか? なんだか気が引ける方が多いかもしれません。そんなイメージもあり、「泌尿器科」で男性不妊に取り組もう!!という医師が少なく、現在にも至っています。
日本生殖医学会によると、不妊治療の専門の医師は全国で約500人前後います、そのうち男性不妊を専門とする医師は50名程度しかいません。実に1/10程度の人数しか医師がいません。
男性不妊の治療をする場合は、この数少ない男性不妊専門の医師がいるクリニック、病院に行くようにしましょう。