人工授精 (AIH:Artificial Insemination of Husband、IUI: Intra Uterine Insemination)とは、パートナーが排卵する時期に合わせて、子宮口から管を入れて洗浄した精液を子宮内へ直接注入する方法です。人工授精は、体外受精や顕微受精等に比べて古い治療で、1949年に慶応大学医学部で開始されて以降、70年以上の歴史があります。古いというのは悪い意味ではなく、逆に長い歴史がある確立された安全な治療ということになります。
人工授精という名前を聞くと人工的な感じがしますが、タイミング法との違いは、精液が入る場所だけであり、限りなく卵に近いところ(卵管の外側3分の1付近)まで精子を持っていく方法です。タイミング法の場合は、膣内での射精のため、『子宮の入口手前』まで精液が入り、その後は自力で頸管を通過した運動精子が子宮内に到達することを期待します。人工授精の場合、もう少し奥の『子宮内』へきれいに洗浄・選別した運動精子を注入します。精子が子宮内へ入った後、卵子まで到達して突入し、受精し、妊娠に至るまでの過程は自然妊娠と全く同じです。
人工授精で大事なことは、出来るだけ排卵に近い時期に、良好精子を子宮腔内に確実に注入することです。
ここでは、人工授精についての説明と人工授精の成功率を上げる方法についてもふれていきます。
目次
人工授精とはどのような場合に適用されるのか
人工授精の適応となるご夫婦は下記のようなケースです。
●射精障害や性行障害で、夫婦生活がうまくできないが、マスターベーションによる採精が可能なケース
●子宮頸管(おりもの)の粘液が少なく、射精精子が子宮まで進むことをアシストできない場合、人工授精で子宮内に精子を運ぶことでうまくいくケースがあります。
●子宮内膜症性の不妊の場合、排卵誘発をうまく行い、人工授精をすることでうまくいくケースがあります。
●男性不妊症(乏精子症、精子無力症、奇形精子症)で、精子を選別したときに良好精子が多く取れるケース(500万匹/ml程度)。
●タイミング療法(排卵の時期を医師に確認してもらいながら、夫婦生活を行う)を3か月程度行ってうまくいかず、体外受精に進むことに非常に抵抗があるケース。

ご夫婦の年齢が高い場合などは、最初から「人工授精」をすすめられる場合もあります。
人工授精で妊娠されるご夫婦の約90%は6回目までに成功することが多いため、6回程度を目安に体外受精へステップアップをすすめられることが多いようです。また、人工授精を行うことで、ご主人の精子に対する抗精子抗体ができるという報告もあり、そのことも治療回数の限界の一つの理由となっているようです。
夫婦生活を始めて長期間(1年以上?)経過すると、旦那さんの精子に対し、奥様の身体に抗精子抗体というバリアが張られ受精が困難になる場合がありますので、人工授精の前に調べておくことをお勧めします。仮に抗精子抗体が陽性の場合には人工授精をスキップして体外受精に進むことを医師から勧められることがあります。

人工授精が成功しやすい条件とは
「射精障害」や「性交障害」がある人で、ご自身でマスターベーションができ、精子自体に問題が無い場合は、効果が期待できるでしょう。
また、人工授精は男性の精子に軽度な問題がある場合、治療をすると効果が出やすいとされています。ご主人の乏精子症や精子無力症が軽度で場合、精子を選別して良好な精子が多く取れた場合には、タイミング法よりもより治療効果が期待できます。

人工授精の流れ
排卵前に準備をはじめ、排卵後に人工授精を行い、妊娠の確認をするというのが流れです。排卵誘発剤を使うのか?によって治療の内容は変わってきます。
●排卵日を推測(生理~7日以内)
生理になった日から、次の「排卵」に向けて準備を行います。一番妊娠しやすいのは、排卵日の5日前~排卵後の12時間以内と言われています。その日のタイミングに向けて人工授精を準備していきます。排卵の方法は、「完全自然排卵」に任せるか、「排卵誘発剤」を使うのか?について検討します。
●排卵前検査(生理10日~12日)
超音波により、「卵胞」の成長をチェックします。超音波検査をすると、「卵胞」の大きさなどが特定できます。さらに「子宮内膜厚」を計測します。排卵検査薬で黄体形成ホルモン(LH)を測定することで、排卵日を正確に予測します。排卵日が近づくと、LHホルモンの数値が上昇します。
この検査をした後、人工授精をする時間や精子の用意方法などを検討します。
●人工授精当日
男性側:精子を持参するか、採精室で採精します。精子を洗浄、濃縮して質の良い精子を分別していきます。
女性側:人工授精をする日に超音波検査をします。人工授精の専用処置室などにより、人工授精をおこないます。
(病院やクリニックにより手順は違います)
人工授精の費用
クリニックや病院によって金額は違いますが1回あたり、2~3万円程度の金額です。保険は適用外になります。排卵誘発等を行う場合には余分に1~2万円程度かかるようです。
ちなみに体外受精を始めると最低でも約20万~50万、顕微授精は約30~50万前後の費用が掛かってしまいます。1回の治療ですめばいいのですが、通常は何回も治療をすることが多いため、不妊治療費がどんどん増えていきますので注意が必要です。
人工授精を考える場合は、必ず「精子の質」についても知っておく必要があります。精子をキチンと検査したら、しばらく治療が必要だということが良くあります。 「精子の質」を整えることで、治療が早く終わることもありますし、治療を人工授精からタイミング法へステップダウンできる場合すらあるのです。
人工授精の成功率は?どのくらい続けたらいいのか?
人工授精の成功率は、5~10%前後であり、想像よりも低い成功率であることが多いです。
クリニックや病院にもよりますが、人工授精の回数は卵巣機能の目安となるAMH(抗ミュラー管ホルモン)、女性の年齢、不妊原因、これまでの治療歴により決めることが多いですが、通常は3回から6回程度行うことが多いようです。その理由としては、人工授精で妊娠される方は、3回から6回程度で成功されることが圧倒的に多いため、6回程度で次のステップに進むかどうかを医師から打診されることが多いようです。
しかし、次のステップの「体外受精」になってしまうと、治療の精神的・肉体的負担も、費用の負担も大きくなるので、足踏みをしてしまう・・・という人が多いのが現状です。
人工授精の成功率を上げるには?
人工授精の成功率を上げるには、奥様が心身ともに最高の状態で人工授精の日を迎えることがポイントです。
ただご主人も実は貢献できることをご存じですか?
精子の作られるサイクルに合わせてサプリメントを服用し、少しでも良い状態で人工授精に臨むことで、男性サイドから成功率向上をはかることをおすすめしています。
当院も開発にかかわった男性不妊サプリメントである、還元型コエンザイムQ10が主成分の『AQ10』、『L-カルニチン』、『長命草サプリメント』を処方しています。どれも最高品質の原料にこだわった安心できる製品です。
人工授精を始める前に、男性側の不妊要因の精査を!
人工授精は、採精が必要となるため、ご主人の協力が不可欠になります。ご主人は必ず協力し、食生活やストレスなど日常生活の見直しも含めて、取り組むようにしてみましょう。
人工授精で精子を始めて調べてみたら、精子の状態が悪く、精査すると精索静脈瘤が見つかるケースもあります。その場合に手術をすることで、精子の質が改善され、自然妊娠に至るケースも多々あります。
妊活を始める前から男性側の不妊要因をチェックしておくことで、パートナーにつらい思いをさせなくて済みますので、まだ検査ををしていないご夫婦は、男性不妊専門の泌尿器科医のいる施設で検査を受ける事をお勧めします。