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このページでは、当院の精子精密検査をもっとくわしく、より学術的に理解したい方向けに専門的な表現で詳しく記載しています。
今後はこのページに各検査の見本集画像を定期的にアップデートしていく予定です。
ヒト精子頭部には、プロタミンと結合して圧縮されたDNAが収納されています。一般的な細胞と異なり、細胞膜直下にプロタミン・DNAが存在するため、細胞膜の損傷はDNAの傷害に直結します。これまで、精子が泳いでいれば頭部および尾部の細胞膜は正常であると考えられてきましたが、選別された運動精子であっても、一部は頭部の細胞膜に傷があることが明らかとなりました。
このような背景で、ヒト精子頭部細胞膜損傷の観察は、後述するDNA断片化検査と組み合わせて、精子の正常性判定を行う最も重要な検査です。
方法: 私どもは、プロタミンに特異的に結合する赤色、青色を用い、頭部細胞膜の「傷」を観察する方法を開発しました。選別した精子を赤色色素と培養した時、もし頭部細胞膜に傷があると赤色色素が浸透してプロタミンと結合します。その後、メタノールで細胞膜を溶かして、青色色素で再度染めると、細胞膜に傷がなかった精子は青く染まります。すなわち、赤く染まった精子は頭部細胞膜損傷、青く染まった精子は細胞膜に傷がなかったと判定されます。
分画(選別)後のDNA非断片化運動精子群。およそ細胞膜が正常な精子群に分けられています。
分画(選別)後のDNA非断片化運動精子群。およそ細胞膜が正常な精子群に分けられています。
分画(選別)後のDNA断片化非運動精子群。ほとんどの精子の細胞膜が損傷しています。
分画(選別)後のDNA非断片化運動精子群。
分画(選別後)の細胞膜良好例➀
分画(選別後)の細胞膜良好例➁
一部のヒト精子頭部には、空胞を認めます。精子は成熟の最終段階で、DNAはプロタミンと結合、圧縮されることにより、楕円形の頭部が形成されます。頭部外周形状の異常および空胞の形成は、DNAはプロタミンと結合異常、すなわち精子形成不全と考えられています。頭部外周形状の異常はよく知られていますが、空胞の個数、大きさなどにも個人差が大きいことが知られています。これまでの研究から、精子を高度に選別しても、空胞陽性精子を排除することは困難であり、生殖補助医療反復不成功例では、頭部が楕円形であっても、空胞陽性精子比率が高いことが知られています。
精子頭部の形と空胞の状態を同時観察することは、精子が上手く造られているかの指標となります。
方法: プロタミンと特異的に結合するReactive blue2で精子を染色して、空胞を観察します。
不良例。赤丸が頭部に空胞が認められる精子です。青色は空胞陰性精子になります。大半が頭部空胞精子ですが空胞陰性精子も存在しています。
やや不良な例。頭部空胞精子が多くを占めています。
不良例。頭部空胞精子が大半を占めます。
正常例。頭部空胞陰性精子が存在する。
精子凍結保存は、生殖補助医療における精子取り扱い技術の最重要課題の一つです。この検査では、選別した精子が凍結保存後に、どの程度生き返るかを調べます。
精子も卵も生ものですから、排卵当日に射精した精子しか、使うことはできません。しかし、精子濃度が低く、授精に必要な精子が足らない場合があります。選別した精子は、凍結保存液と混合して、液体窒素(-196℃)中で長期保存できます。生殖補助医療において採卵は数ヶ月に一度ですが、精液は毎週採取できます。そこで、「精子の貯金」、すなわち精子を凍結保存することにより、沢山の精子を得ることができます。ここで問題となるのは、凍結精子を融解したとき、運動性を失う精子の割合に個人差があることです。そこで、精子がどのくらい凍結保存に耐えられるかを、あらかじめ検査しておくことにより、凍結保存が可能か、さらに一回の授精に何回分くらいの精子を用意する必要があるか、目安を検査します。
方法:選別した精子に凍結保存液を加え、数分間、-196℃に冷却します。温湯中で融解し、凍結前後の運動率を比較します。
精子は形成過程でDNA修復能を失うため、射精された精子の一部(実際には過半数)はすでにDNA2重鎖が切れています。これを、DNA断片化と呼びます。生殖補助医療にDNA断片化精子を用いるのはできないことは、容易に理解できます。しかし、ご注意いただきたいのは、切断箇所が増加すると、それに比例して受精、妊娠の可能性が下がり、生まれてくる子の異常が増加するわけではありません。DNA断片化の許容限度(実際には、1カ所でも切れていてはいけない)を超えると、授精した胚は発生できなくなります。すなわち、DNA断片化の検査は、個々の精子における数カ所のDNA切断を検出することが求められます。
選別した運動精子であっても、一部にDNA断片化が認められ、切断の程度は個人差が大きいことが明らかになりました。本検査は、選別した精子を授精に使用することができるかの目安となります。
方法: 我々は、single cell pulsed field gel electrophoresisにより、選別した精子をスライドグラスに貼布し、アガロースで包埋(厚さ0.1mm)し、蛋白分解酵素によるDNA結合タンパク除去、電気泳動法によりDNA fiberの伸張、断片の分離を行う方法を開発しました。断片化陰性(DNAの状態は良好であり、伸張したfiberのみ)、伸張したfiberの先に長鎖断片を認める初期状態、断片化の進行に伴い、鎖長の短縮と共に断片量の増加、全てが粒子状断片呈する末期状態、が観察される。一般的には、選別した運動精子分画では、断片化陰性(伸張したfiberのみ)が大半を占め、一部に伸張したfiberの先に長鎖断片を認める初期状態のものが観察されます。断片化陰性精子数を観察した精子の数で除した割合が、DNA断片化陰性精子比率になります。
当院選別後DNA損傷がない、DNA良好精子群
当院選別後DNA損傷がない、DNA良好精子群
当院選別後DNA不良例
顕微授精で繰り返し不成功の方の選別後精子のDNA画像。
当院選別後でもDNAが粉々の状態
先体は、精子頭部前半部をヘルメット状に覆う、薄い袋です。この中には、精子が卵の透明帯(殻)を溶かして、卵内に侵入、受精するのに不可欠な酵素が入っています。精子は卵のすぐ近くまで到達したタイミングで、先体中の酵素を放出しなくてはなりません。
本検査は、先体の内側に局在するマンノース糖鎖をconcanavalin Aで染色して、先体が存在しない(欠損)、先体は正常に存在するが、すでに先体膜が損傷している(無効先体)、先体は正常に存在し、先体膜に傷はなく、卵の側で先体反応を誘起することが期待される(有効先体)に3分類します。体外受精では、精子は自力で卵の側まで泳いで行き、先体反応を起こして、卵に侵入する必要があります。有効先体を持つ精子の比率を観察し、体外受精が可能かの、目安とします。
方法: 選別精子にcy3(赤蛍光)ラベルconcanavalin A (等張培養液)を添加、37℃で20分間培養、メタノール除膜、Alexa488(緑蛍光)ラベルconcanavalin Aで対比染色します。判定:無染色:先体欠損、赤色:先体は存在するが、すでに損傷(無効)、緑色:先体が存在し、先体膜は無傷(有効)とします。
正常な例。当院選別後でも赤の無効先体が少し残っている。
やや不良な例。当院選別後にもかかわらず、赤の無効先体がかなり多く、緑の先体もむらがある不良なものが多く含まれています。
やや不良な例。良い先体と悪い先体が混在している。
先体の緑色も薄い。
先体が良好な例。すでに先体反応を起こしているいる精子が非常に少なく緑色のはっきりしている良好な先体が多い。
不良な例。悪い先体が多い。先体の緑色もかなり薄い。
不良な例。発光していない精子が多く、発光していてもまだらな精子が多い。
妻の血液(体液)中に夫精子に対する抗体を産生してしまうことがあります。これを、抗精子抗体と呼びます。妻血清を精液と混合して顕微鏡で観察し、精子運動の抑制(不動化)や精子と精子の凝集を認めた場合、坑精子抗体陽性と判定し、受精障害の目安としてきました。
私どもは、ヒト精液から細胞膜損傷、DNA断片化、非運動精子(劣化精子)と細胞膜正常、DNA非断片化、運動精子を分別し、後者を授精に用いています。両者の精子抗原性を免疫2重染色法で比較すると、前者は抗原が低く、後者は抗原性が高いことを見いだしました。従来の精液を対象とする検査では、坑精子抗体陽性率は1%以下でしたが、選別精子を対象とする検査では2-3割が陽性でした。
量的には、前者が精子の半数以上、多くは7-8割を占めます。形成された精子は、精巣上体で射精を待つ間に老化、変性します。機能損傷として、DNA断片化、頭部細胞膜損傷、運動性を失うことについてはお話しましたが、同時に細胞表面の抗原性を失うと考えられます。従って、精液を対象にする抗精子抗体検査は偽陰性を呈します。さらに、選別精子を対象として免疫2重染色を行うと、精子の様々な部位に対する抗体が産生されていることがわかりました。現状では、症例集積が不十分であり、どの抗原に抗体が付着すると、受精障害が起きるかは不明ですが、抗精子抗体陽性例においては、妻の体外で受精を行う、体外受精が特効治療であり、もし、抗精子抗体陽性と判定された場合は、体外受精が選択枝としてあげられる。本検査は治療方針の決定に重要である。
抗精子抗体陰性例➀
抗精子抗体陰性例➁
抗精子抗体陽性例。接合部、頭部、尾部が陽性です。
抗精子抗体陽性例。接合部、頭部、尾部が陽性です。
抗精子抗体中片部陽性例➀
抗精子抗体中片部陽性例➁
これまで、夫妊孕性(妻を妊娠させる力)の指標として、射精精液そのものの観察が主流であり、精子濃度が高く、運動率の高い精液は妊孕性が高いと判定された。
すでに、「ヒト精子を分画する過程で、細胞膜損傷、DNA断片化、非運動精子と細胞膜正常、DNA非断片化、運動精子分画に分離する」とお話しました。具体的には、沈降平衡法と、沈降速度差遠心分離法を組み合わせます。細胞膜損傷、DNA断片化、非運動精子は沈澱に回収される。細胞膜正常、DNA非断片化、運動精子は中間層に回収されます。
両者の物理化学的性状は、前述して抗原性とともに大きく異なる。が、上述したように、形成された精子は、精巣上体で射精を待つ間に老化、変性します。射精精液中では、明らかに受精に寄与しない細胞膜損傷、DNA断片化、非運動精子が半数以上、多くは7-8割を占めます。このことは、夫の妊孕性の評価は、明らかに受精に寄与しない劣化精子を除いた精子(中間層)を基礎値とする方が、実態をより反映することを示しています。我々は、新たに中間層の精子数、運動率を実効精子という用語を新設しました。授精に供する精子は、この実効精子をさらに特殊試薬で分離した沈澱に相当します。
方法: 精子選別の過程で、中間層、沈澱の動画を撮影し、両者の比を求める。
これまでの経験から、沈澱の量が極めて多い方では、最終的に選別した精子の機能異常(細胞膜損傷、DNA断片化、空胞)が多いことが明らかになっている。