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精索静脈瘤について

• 精索静脈瘤の症状

  症状としては、多くの場合自覚症状がありません。
  精索静脈瘤は左右で違いがあり、通常左側にみられます。
  自覚症状としては、
  ①陰嚢部に不快感や痛みを感じる（重症であることが多い）
  ➁ 目で見える症状として陰嚢上部に瘤（こぶ）が見える
  の二点があります。
  目で見えるような著しい精索静脈瘤の場合には、精巣や精子に重いダメージがもたらされていることがあります。
  また触診ではわからず、超音波エコー検査で検出されるものもあり、これをサブクリニカルな精索静脈瘤と言います。
  入浴時は皮膚がゆるんで現れやすいため、自分でもわかることがありますので、チェックしてみることをお勧めします。

• 精索静脈瘤の原因

  基本的には生まれつきであることが多いです。
  
  動脈は心臓から流れ出す血管のことで、静脈は心臓に還っていく血管のことです。
  
  原因 ①静脈は心臓に還るまでに合流と分岐が多い。
  ②静脈血流の向きは、精巣から心臓なので、重力に逆らった向きである。
  ③精索の静脈は径が細く圧力も弱いため、太い静脈と合流した時に、圧力の差で合流が妨げられ、より渋滞の程度が深刻になる。
  ④静脈の内側には静脈弁が存在し、これが血流を下から上にはねあげる働きをしているがこのはねあげる力が生来弱く、下向き圧力に耐えられない。
  ①～④の理由で、精巣の周囲に血液の溜まり「瘤（こぶ）」が生じることになります。

• 男性不妊との関連

  精索静脈瘤と男子不妊症との関連は諸説ありますが、最も有力なのは「温度上昇説」です。
  ヒトの体温は通常36～37℃ですが、精巣にとっての適温は32～35度程度と言われており、精巣の周囲は涼しいのです。
  体はこの涼しい環境を保つため、精巣を体外に出して風通しを良くしています。
  また精巣が入っている陰嚢にシワがありますが、これは表面積を増やして熱放散をしやすくしています。
  精索静脈瘤があると、これがヒーターとなり精巣周囲の温度が上昇します。
  しかも常に温めているような状態なので、精巣の精子を造る機能（造精機能）が著しく低下してしまいます。
  また近年、精索静脈瘤と男性ホルモン（テストステロン）値の低下に相関があるとの研究報告もなされており、これが造精機能の低下を助長することになります。さらに中高年世代ではこの男性ホルモンの低下により、男性更年期障害の原因にもなるようです。

• 精索静脈瘤の検査及び診断

  視診 立位で陰嚢上部に瘤（こぶ）状の腫れがあるかを観察します。
  
  触診 さらに腹圧をかけていただき、触診で上記の腫れが出現するか（腹圧をかけると出現することがあるので。）を観察します。
  また押さえると痛み（圧痛）が出るかも確認します。
  腫れの程度（瘤の大きさ）により、小さいほうから順にグレード１～３に分類されます。
  この診断はとても重要ですが、熟練した医師でも判断に誤差が生じたり、日によって変化することがあったりと、デリケートな評価であり、手術（後述）の際には術前に再度確認を要することもあります。
  
  超音波（エコー）検査 血液の逆流の有無・程度を確認します。
  視診や触診で確認できないものの検出や、静脈の直径をミリメートル単位で計測することが可能です。
  この検査は、検査技師が行う施設もありますが、当クリニックは必ず泌尿器科医師が行います。
  精巣エコーではそのほかに精巣の大きさ、精巣内部の異常や劣化・老化を検索することも併せて行っています。
  
  精索静脈瘤の診断 視診・触診・超音波エコーにより、精索静脈瘤の診断を下します。
  小さい方から順にグレード１～３に分類します。このグレードに精子検査の結果を加味して治療方針を決定します。

精索静脈瘤の治療

治療は大きく分けて、薬物療法と手術療法の2つがあります

• 薬物療法

  グレード1～2の軽度～中等症、精子所見が正常に近い例、ご夫婦の年齢、手術の回避を希望する例、などの場合は薬物療法の適応になります。
  薬物療法の中心は漢方療法です。代表的な漢方薬は下記の二種です。
  
  桂枝茯苓丸（けいしぶくりょうがん） 「駆瘀血（くおけつ）」剤の代表的漢方製剤。
  精索静脈瘤の病態「精巣→心臓に還る静脈のうっ滞・逆流」を、「瘀血（おけつ）」と見て、うっ滞・逆流を上向き（心臓の方）に押し戻す「駆瘀血（くおけつ）」の作用を期待して用います。
  
  桃核承気湯（とうがくじょうきとう） 桂枝茯苓丸より強い駆瘀血作用を持つ漢方製剤。
  桂枝茯苓丸による治療効果が乏しい場合に用います。
  ※漢方の主な副作用として、発疹、発赤、かゆみ、食欲不振、胃部不快感、悪心、下痢などがあります。
  
  サプリメントの併用 漢方薬に、コエンザイムQ10等のサプリメントを補助的に併用します。
  当クリニックでは、数年間、様々なサプリメントの比較試験をした結果、還元型コエンザイムQ10が高含有されたAQ10（エーキューテン）を採用しています。
  
  手術との併用 後述の手術療法に漢方薬やサプリメントの併用も行います。
  静脈瘤が重度（グレード３）の例、術前の精液所見が深刻な例、術後の精子所見の改善を速めたい例、などの場合に行ないます。しばしば手術前から開始します。

• 手術

  いくつかの術式がありますが、手術の本質はうっ滞・逆流をきたしている静脈（内精索静脈）を結紮（縛る）または切断することです。
  日帰り手術と入院手術があります。
  
  高位結紮術 文字通り各術式の中では、最も高い位置で切開する方法です。
  全身麻酔か腰椎麻酔になります。
  基本的には入院です。
  へそのやや下で約4~5cm切開します。
  腎臓に近い位置なので、静脈が数本にまとまってきていて、技術的には容易です。
  残さなくてはいけない動脈やリンパ管温存がやや困難で、術後の痛みが強いことも患者さんにとって厳しい点です。
  副作用は、陰嚢水腫発生率7～8%、静脈瘤の再発率15%前後とやや高率です。
  
  低位結紮術 精巣に近い位置で切開する方法です。
  局所麻酔（施設によっては全身麻酔）で日帰りです。
  鼠経（そけい）部（足の付け根）で約3~4cm切開します。
  手術は、顕微鏡を用いた微細な小手術となる為、難易度が比較的高いです。
  当クリニックはこの術式を採用しています。
  最新鋭の機材（手術顕微鏡やモニター）で丁寧に手術を行なうことで、多数の動脈やリンパ管温存が可能な点がメリットです。
  傷口が小さく術後疼痛も軽いので、術後歩いて帰宅できます。
  ただし、多数に枝分かれした静脈を満遍なく拾うことが出来る技術の高い医師が執刀する医療機関を選ぶことが重要です。
  副作用は、陰嚢水腫発生率0~1%、静脈瘤の再発率0~11%と、他の術式と比べて低率です。
  
  腹腔鏡下精索静脈瘤手術 腹腔鏡を使って、腹部または鼠経（そけい）部で行なう術式です。
  全身麻酔で入院は1週間を要します。
  腹腔鏡下手術は、両側の精索静脈瘤の場合、効率的に手術が行なえるため、有効と言われています。
  ただし、高位結紮術と同様に、動脈やリンパ管温存が困難な点がデメリットです。
  副作用は、陰嚢水腫発生率3~12%、静脈瘤の再発率4%と低位結紮術に比べて高率になります。

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当クリニックの精索静脈瘤手術について

当クリニックの精索静脈瘤手術は、以下の５つの特徴があります。

① 日本に100名に満たない生殖医療専門医と泌尿器科専門医の両方をもつ男性不妊のエキスパートが手術を行います。
② 傷口が小さくて済む『低位結紮術』で行ないます。顕微鏡下低位結紮術という術式です。
　a）この術式は、切開が小さく2cm程度で済みます（高位だと4~5cm）。
　b）当クリニックでは患者さんに合わせて、局所麻酔を独自のノウハウで行ない、可能な限り少量の麻酔で、体への負担を最小限に留めます。
　c）術後の回復も速やかです。術後、歩いて帰宅、飲食も可能です。ただし、手術当日の飲酒は控えて下さい。
③ 手術は日帰りで、基本的に土曜日に実施しますので、翌日が日曜日、仕事復帰は月曜日から、というメリットがあります。
④ 手術施行にあたっては、2名の医師で互いに確認し合いながら、超音波ドップラー血流計を用いて音で確認しながら、動脈・リンパ管の温存や、動脈にくっついた細かい静脈も一本一本もれなく結紮（切断）します。したがって、静脈瘤再発のリスクは非常に低く抑えることが可能です。
⑤ 最新の医療機器・最良の備品を用いて手術します。手術用顕微鏡（カールツァイス社製）や血流の確認に用いる超音波ドップラー血流計（ハデコ社製）等、この手術においてはハイスペックともいえる機種を使用しております。
片側（通常左側）の場合、手術時間は1時間程度です。

当クリニックの精索静脈瘤手術は、直近の1年間で130件を超えており、国内でも有数の手術件数を誇ります。またここ5年間で再発例はありません。しかも保険診療で日帰り手術ができる数少ない医療機関です。

一生に一度の手術を最善の結果にするため、
クリニックでの手術をお勧めします

当クリニックの精索静脈瘤術後プロセスについて

言うまでもなく、精索静脈瘤の手術後に「実際に静脈瘤が縮小・消失している。」「実際に精子所見が改善している。」ことが重要です。
当クリニックではこれらの確認のための診察を設けており、術後数か月後に実施しています。
手術を受けた方全員が対象です。
さらに精子所見の改善だけでなく、受精-妊娠がしやすくなったか（妊孕性）を解析・検証する高度精子解析検査（Bコース）も組み入れています。（希望者のみ）
もちろんBコースの結果次第では、採卵するレディスクリニックへの選別精子をお届けするサービスも行ないます。（別途料金がかかります）
術後の精子所見の改善効果が現れるまでに半年～1年程度を要することもあるため、早めの手術決断が大切です。
半年～1年期間を待てない場合には（奥様の年齢等）、選別精子を用いて体外受精や顕微授精を実施する、“同時並行”が現実的な選択となります。
※術後再発例には、静脈塞栓術（放射線科で精巣静脈に塞栓物質（血管の中にコイルなどを）を詰める）という方法もあります。