奇形精子症とは
奇形精子症とは、正常な形をした精子が非常に少ない状態のことを言います。96%以上が奇形であると分かった場合には、奇形精子症と診断されます。
『自分の精液中に、正常な精子が4%しかいない!?』
ただ、驚かれるかもしれませんが、健常な方でも正常な精子は、実は少なく、80%以上は奇形が占めているといわれています。実は4%もいれば良い方で、男性不妊外来に来られる方は、正常な精子が1~2%しかいないのが現状なのです。
WHO(国際保健機関)の調べによると、年々成人男性の奇形精子の割合は増えており、1999年に85%だったものが、2010年には96%と激増傾向にあります。正常な精子が全体の4%以上いれば、正常とされるレベルです。
今回は、奇形精子症の原因と「奇形精子症は治せるのか?」について説明していきたいと思います。
目次
奇形精子症とは
激増する奇形精子
不妊業界では、通常、精子の頭部が楕円形で元気に泳いでいるものを良い精子とします。顕微授精等を行う場合にはそういった良い精子を選ぶことに熟練された技師が、卵に刺す一匹の精子を選んでいるのです。
下の図を見てください。赤い点々で囲まれている精子以外は奇形精子なのです。
色々な形の精子があります。精子の形はすべて同じではありません。頭部がきれいな楕円形をしているものから、いびつな形をしているものなど、精子には多種多様の形があります。

正常な形ではない精子が多いと不妊の原因となります。形が悪い精子の事を「奇形精子」と呼びます。この「奇形精子」が96%以上ある場合、「奇形精子症」と診断されます。頭部の形に異常がある精子は、DNA情報が正常ではなかったり、前進する力が弱かったりするので、射精後に卵子を目指す、厳しい生存競争に耐えられず、淘汰され、正常な妊娠に結びつかないのです。
奇形精子症の原因とは
この奇形精子症は、原因が不明であり、まだ詳しいことはわかっていないのが現状です。過度なストレスや食生活等が原因ではないか?という報告もあります。
精子が酸化ストレスに非常に弱いことはわかっているため、CoQ10等の抗酸化サプリメントを継続的に飲むことで精子濃度が増えたり、奇形精子が減るなどという報告があります。また、精子が熱にさらされた状態の『精索静脈瘤』の治療をすることで改善したケースなどもあります。
男性不妊は仕事で過度なストレスを抱えている人などがなりやすい傾向があるので、まずは生活習慣の見直しなどからスタートすると良いかもしれません。ただご夫婦が置かれた状況によっては、生活指導に加えて治療が必要な場合もあるので、できれば信頼できる泌尿器科医師の診断を受けるようにしてください。
奇形精子症の検査方法とは
精子の奇形率を調べる方法にはクルーガーテストという方法があります。クルーガーテストは、一般的な染色を行い、精子の形を評価します。
現在ではさらに精緻に精子の形態を観察する技術が向上しており、特殊な染色液を用いて精子の形を計測することができるようになっています。
エス・セットクリニックの精子検査では、精子の頭をより精密に解析できるため、正常か奇形の判定をより厳しく行っています。
奇形精子症の治療方法とは
奇形精子が増加する原因やメカニズムが不明なだけに、奇形精子症だけを治す治療というのは存在しませんが、乏精子症や精子無力症、精索静脈瘤、逆行性射精などの治療をする過程で、奇形精子症が改善することもあります。
ただ、顕微授精をする場合には、一匹の精子を選んで卵に刺すため、より一層の注意が必要です。奇形率だけにとどまらず、精子のDNAの状態や、先体反応をおこす力があり、ミトコンドリア等も問題がない選別された精子を用いて行うことが重要です。
正常な精子の形とは
正常な精子の形とは?
正常な精子の形とは、楕円形をしています。精子は形がよく、運動率、数などが多ければ多いほどよいとされています。
奇形精子症であると、頭が小さかったり、首の部分が折れていたり、頭部に大きな穴が開いていたり等、いびつな形をした精子がほとんどになります。

奇形精子症でも体外授精(顕微授精)は出来るのか?
奇形精子症でも体外受精で元気な子供を授かる可能性は十分にあります。
奇形精子がいることで、生まれてくる子供にも奇形が出るのでは?と心配される方も多いですが、成人男性の精子には非常に多くの奇形精子が多く混じっています。自然妊娠の過程で、通常は奇形精子は淘汰されているのです。
体外受精の場合には、精子が自力で卵に入っていきますが、卵に到達する前に、ほとんどの奇形精子は自然に淘汰されます。
問題は、顕微授精の場合であり、いかに良い精子を選ぶか?が大事になってきます。精子の形が悪いという事は、精子のDNA状態が悪いとまでは相関していませんが、顕微授精に利用するに値する精子がご自身の選別精子にどれくらい含まれているのかを事前に調べておくことは非常に大切です。
顕微授精を行う場合、大事なのは「いかに良い精子を選び出すか?」です。奇形精子症でも、奇形精子やDNAが損傷した精子を極力排除し、良質な精子を選び出す技術があれば、妊娠率の向上、流産率の低下、先天異常の低下が期待できるのです。
奇形精子症のまとめ
奇形精子症については、いかがでしたか?健康な男性でもすべての精子がきれいな形をしているわけではありません。奇形精子症と診断されたとしても、ある程度の精子数がいれば、顕微授精(ICSI)をすることはできます。
奇形精子症と診断され、体外受精や顕微授精(ICSI)をお考えの方は、生まれてくる子供の健康を考え、いかによい精子を選ぶか?についても知っておくとよいかもしれません。